鋳物の話

スペシャルコンテンツ

最新情報

鋳物とCAE

2020/11/02

CAEとはComputer Aided Engineeringの略称で、コンピュータを使って設計や製造工程の事前検討をすることができる技術のことです。簡単に言うと、実際に製品を作らなくても予め溶湯の流れや凝固時の欠陥の発生を予測することができる技術です。鋳物は叩いて欠陥を潰すことができる鍛造品とは異なり、欠陥が残りやすい技術なので、事前に欠陥の予測が出来る技術は非常にありがたいです。鋳造会社の多くがCAEを取り入れて解析を行っており、どんどん広まっています。
木村鋳造所では、MAGMA Simulationというドイツの鋳造シミュレーションソフトを使って、鋳造方案を立てています。このMAGMAでは、鋳造に関する様々なシミュレーションが出来ます。木村鋳造所では鋳鉄や鋳鋼の湯流れ解析、凝固解析、応力解析に用いています。湯流れ解析により、湯回り不良(溶湯が途中で冷えて固まってしまい、鋳型が満たされない不具合)を起こさない適切な鋳込み温度の設定や、最適な湯流れになるような湯道方案の設計などを行っています。また、凝固解析により、ひけ巣予測をすることで、適切な湯道、押し湯、冷やし金施工の設計を行っています。そして、割れが予測される製品については、応力解析により、熱間割れから冷間割れまで割れの解析を実施し、形状変更の提案や余肉を施工する対策を実施しています。
実際のひけ巣事例を図1に示します。ねじ穴加工で見つかったひけ巣不具合の例です。ネジ穴を加工したら空間が見えたので、縦に切断したら中までひけ巣が広がっていたという例です。ひけ巣は、溶湯が凝固する際に体積減少するために、最終凝固部で溶湯が足りなくなって発生します。CAEがない時代は職人による経験に頼った対策を実施していましたが、CAEを用いることで経験がそれほど多くない作業者でも対策の判断が出来るようになってきました。事前に凝固解析を行うことにより、このようなひけ巣欠陥の発生を防止することが出来るというところがCAEのポイントです。
MAGMAでは、ひけ巣をPorosityという項目で確認することが出来ます。木村鋳造所では解析精度を上げるために基礎的な実験を行い、ひけ巣のパラメータを設定しています。図2にシミュレーションによる凝固解析の結果とひけ巣発生確認試験の結果を示します。シミュレーションの結果と実際のひけ巣の発生位置が同じであることが分かります。このようにシミュレーションにおいては、実際の結果が同じになるように合わせこみを行うことが重要です。これは各社のノウハウとなる部分です。
実際には、経済性や作業性も考慮した上で重要部位に不具合を出さない最適な方案を組むことが必要ですが、シミュレーションのおかげで実際に鋳物を製造して検証する時間とコスト、リスクを削減することができるようになります。
もう一つの解析例として、応力解析の例を示します。鋳物は凝固後の冷却過程で収縮します。収縮量は温度に依存するため、均一に温度が下がれば全体が同じように収縮するため問題はありませんが、ほとんどすべての鋳物製品は部位により肉厚が異なるため、薄肉部では早く冷却され、厚肉部は遅れて冷却されてしまい、収縮の度合いに差が発生します。差が発生すると、変形してしまうか、製品周りにある鋳型の拘束により、変形できず内部応力・ひずみが溜まります。内部応力には引張と圧縮がありますが、引張応力が溜まった場合、その値が材料強度を超えていると割れてしまいます。MAGMAシミュレーションでは、各種応力・ひずみの解析ができます。この割れには、温度が下がってから割れる冷間割れと、鋳型内で温度が下がる前に割れる熱間割れがあります。冷間割れは、解枠温度程度まで冷却が進んだ状態で材料強度を超えている引張応力の有無により確認することが出来ますが、熱間割れになると、材料強度が温度により大きく変化するため、応力の発生状態と温度を同時に考慮する必要があります。また、溜まっているのが材料強度を超えない応力であったとしても、その後の熱処理や溶接、加工などで追加の応力が加わり割れる可能性があるので注意が必要です。
図3~5に、実際に発生した割れと応力解析結果の例を示します。この鋳物は角の部分に割れが発生する可能性があったので、角に割れ止めの余肉を貼ってありましたが、割れが発生してしまいました。応力解析を行ってみると、常温では圧縮の応力がかかっていました。圧縮の応力がかかっている場合は満員電車のように押し合っている状態なので、割れは発生しません。一方、高温での応力を調べてみると、引張の応力が発生していました。高温では素材の強度も低くなるため、発生している応力が小さくても割れることがあります。この製品は、応力解析により熱間割れであることが分かったことで、対策を打つことが出来た事例です。
このように、CAEは鋳造業におけるものづくりの品質向上の一助となっています。

図1 ネジ穴加工で見つかったひけ巣
図2 ひけ巣発生確認試験の結果
図3 割れの例
図4 常温での応力解析結果
図5 高温での応力解析結果

過去の記事

投稿サムネイル
鋳鉄鋳物の溶接について
2020/11/02
投稿サムネイル
鋳鉄と鋳鋼の違い
2020/11/02
投稿サムネイル
世界が注目する素形技術「鋳造」がここにあります 〜鋳物5600年の歴史〜
2020/11/02